Mr.Childrenアルバムランキング

今年デビュー30周年を迎える国民的バンド、Mr.Childrenのアルバム全18枚を個人的な好き嫌いを基に順位付けしたいと思います。この記事を書こうと思い立ったのは、Twitterで別の人のミスチルアルバムランキングを見かけたのがきっかけです。

それとは別に、高校生の頃から幾度となくアルバムランキングをぼんやり考えていたので、自分がミスチルを聴くようになって10年となる今年を区切りに一度文章として残しておきたかったというのも理由の一つです。

ランキングの前に、彼らのバイオグラフィーをかなり雑に紹介します。

1989 結成 

1992 メジャーデビュー

1994 「innocent world」でブレイクしレコ大受

1997 活動休止→1998 活動再開

2001 2枚組ベストアルバム(通称「肉」「骨」)リリース

2002 フロントマンの桜井和寿脳梗塞で入院

2004 桜井和寿ap bank fes限定バンド、Bank Band結成

2008 「Gift」で初の紅白出場

2012 2枚組ベストアルバム(「micro」「macro」)リリース

2018 サブスク解禁

大きな区切りとしては、①渋谷系を意識した甘々な初期(〜94) ②ミリオンヒットを連発したブレイク期(94〜96) ③「深海」に端を発するロックバンドMr.Children探究期(96〜01) ④「肉」「骨」以降J-POPに回帰した安定成長期(01〜05) ⑤ややマンネリが感じられたバラード期(06〜12) ⑥サマソニや年下バンドとの対バンで刺激を受けたと思われるバンドサウンド回帰期(13〜現在) という分け方ができると思います。

それではランキングです。

18位 EVERYTHING (1992)

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・記念すべき1stアルバム。しかし7曲しかないのでフルアルバムと呼んでいいのか分からない。彼らと長年タッグを組むことになるプロデューサー、小林武史(以下コバタケ)の趣味なのか渋谷系だったり、ビートルズ的な古き良きUKロックを思わせる甘々でポップなサウンド。ただし初期なのもあってブレイク以降よりずっと生々しいバンドサウンドではある。収録曲唯一のシングル「君がいた夏」はこのアルバムと同時リリース。

17位  [an imitation] blood orange (2012)

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・20年時を進めて2012年の作品。00年代後半から続くコバタケのオーバープロデュース具合が頂点に達し、バンドよりもピアノとストリングスの存在感が強い。震災をテーマにした「かぞえうた」など地味な印象のバラードが多い。どうも印象が薄くパッとしない印象のアルバムかなーと。ただし、タイトルに反して皮肉っぽい歌詞の「Happy song」は個人的にすごく好き。サカナクション的な四つ打ちの「過去の未来と交信する男」は未だによく分からない。四つ打ちをやると何故かダークな曲調になるのはミスチルあるあるで面白い。自分が初めてリアルタイムで聴いたアルバムがこれでした。当時15歳。

16位 重力と呼吸 (2018)

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・ワンオクやRADなどとの共演を経て、50を目前にして「自分たちはロックバンドだ」という意識が芽生えたらしく、バンドが前に出た作品。ただし、似たテイストのややロックバラードが並んでしまった。そのうえ、アップテンポの「海にて、心は裸になりたがる」も彼らなりに王道のロキノン系ギターロックを目指したのだろうがイマイチ。ミスチルが「ロック」を意識すると後述の「ニシエヒガシエ」のように何故か癖の強い曲が出来上がるので面白いけど「海へと〜」はそういう訳でもなく微妙。リリース当時「リスナーの想像力を信用していない」という発言もあったが、敢えてなのか歌詞はシンプルで深みがなく、そこも物足りなかった。

15位 HOME (2007)

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・環境破壊など社会問題を取り上げた音楽フェス、ap bank fesへの参加を経て、過去一番穏やかでや優しい作風になったアルバム。ある意味問題作。このアルバムでの桜井和寿は子煩悩な父親そのもの。あまりにも丸くなってしまい20代のギラギラした桜井和寿の面影は殆ど無い。個人的には「家系図を模したアートワーク」が苦手。ファンの中にはこのアートワークを深読みする人もいるが、自分もそっちを推したい。基本毒のないアルバムだが、桜井和寿ニヒリズムを象徴するシングル曲「フェイク」がアクセントになっている。「フェイク」の存在がこのアルバムのテイストに対する皮肉なのかもしれない。「Another Story」と「通り雨」は結構好き。

14位 REFLECTION (2015)

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・「いつもだったらボツにするような曲も入れよう(全23曲)。CDじゃ収まらないからUSBで売ろう」という正気じゃない作品。(12曲に絞ったCD版も同時発売) そのため、玉石混合の混沌とした内容。先行シングル「足音〜Be Strong」からコバタケと離れセルフプロデュースとなったため、バンドサウンドが強調された曲が目立つ。Foo Fightersを参考にしたが、タイアップ先を意識した結果とんでもなくダサくなってしまった「R.E.M.」やミスチルプログレハードロック「WALTZ」など個性的な曲が多い。ただ、先述の「足音」も既存のロックバラードと比べると微妙な出来だし、「幻聴」なんかも良い曲だけどCメロが無くて少し物足りなかったり、「歌モノ」としてはちょっと弱い。また、過激な歌詞も散見されるが無理してる感があり、全体的に空回り感が否めないアルバム。

13位 ATOMIC HEART (1994)

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・大ヒットした「CROSS ROAD」「innocent world」を収録し彼らの中では一番売れたアルバム。ただし、アルバム曲は彼らとコバタケの試行錯誤が窺える。初期のポップな渋谷系サウンドはほぼ消え、デジタルな打ち込みを用いた曲が目立つ。スペーシーでダークな「ジェラシー」やエスニックな「Asia」がこのアルバムのカラーを象徴している。翌年、桑田佳祐とコラボしてヒットした「奇跡の惑星」もこの路線と似ている。当時のU2を思わせる「Dance Dance Dance」はライブの定番曲になったが、どうもバブリーな時代を引きずった、時代を感じさせるアレンジが多くあまり好きではない。この2年後、彼らはアナログ生音に拘った「深海」をリリースするため、ディスコグラフィーの中でも浮いてるアルバム。「深海」との間にもう一枚売れ線重視のアルバムを出していればそれが代表作になったかも。

12位 SOUNDTRACKS (2020)

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・2022年時点での最新作。先行シングル「BIRTHDAY」(ドラえもん映画の主題歌)や「turn over?」は(重苦しくなりがちな)ミスチルらしからぬクリアな音の鳴りと軽やかな曲調で、アルバムへの期待も膨らんだ。しかし、いざリリースされると、確かに音響面は素晴らしいもののやや暗くて重いアルバムという印象。桜井和寿も50代に突入し、若い頃の憧れではなくリアルなものとしての「死」「老い」についての歌詞が目立つ。個人的にはそこまで老け込まなくても…と思った。お得意の不倫匂わせソング「others」はこれぞ桜井和寿といった歌詞で流石。リスナーの想像力に委ねた名曲。静かなバラードと見せかけて一捻りある「君と重ねたモノローグ」も今まで無かった試みで新鮮だった。

11位 Versus (1993)

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・大ブレイク目前。過渡期と言えるアルバム。「EVERYTHING」の頃と大きく作風は変わらないが、歌詞を見ると桜井和寿の暗くて皮肉っぽい側面が徐々に表出しつつある。あまりキャッチーではなく地味な立ち位置だが、ドラマー鈴木英哉(JEN)の歌う「逃亡者」は何気に隠れた名曲だと思う。あとは甘美でサイケな「マーマレード・キッス」なんかも良い曲。

10位 SENSE (2010)

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・収録曲をリリースまで伏せたり、プロモーションを行わなかったりと実験的な試みが為されたアルバム。リード曲「擬態」は踠き苦しみながら走っていくようなミスチルらしい名曲。劇場版ワンピースの主題歌「fanfare」と、ラップ風早口もある変テコ四つ打ちロック「ロックンロールは生きている」などはテンション高めだが、全体的には落ち着いた雰囲気。コバタケ仕立てのバラードが目立つが、「Forever」筆頭にそれなりの水準だと思う。過去曲のタイトルが歌詞に登場する「Prelude」は彼らの軌跡を総括するような曲。

9位 KIND OF LOVE (1992)

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・初期3作の中でも特に人気の高いアルバムで、ブレイク後にセールスが伸びた。初期を代表する名バラード「抱きしめたい」を収録。ミスチル流ソウル「BLUE」や耽美なバラード「車の中でかくれてキスをしよう」など、渋谷系AORっぽい雰囲気のやや時代を感じさせるラブソングが並ぶ。コバタケの趣味が大きいとは言え、これはこれで一つの到達点かな、と思う。「抱きしめたい」はもう少し後に出してれば確実にミリオン突破してたはず。ピアノバラード「いつの日にか二人で」がお気に入り。

8位 I❤︎U (2005)

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・本人としては「最高傑作」だったらしいがイマイチ影の薄いアルバム。初っ端からストリングスとバンドが疾走する「Worlds end」はライブでも定番の人気曲。それ以降は「SENSE」の雰囲気に近い。「CANDY」はミスチル屈指のラブバラード。ColdplayU2を意識した「and I love you」も新境地だ。後半、ストーカーソング「Door」やコンドームの歌こと「隔たり」など癖の強い曲が多く、そこが評価の分かれ目となっている(恐らく桜井和寿本人はこの後半をすごく気に入っている) 。そして「深海」を匂わせておいて市民プールで漂う「潜水」の気怠げなサイケデリアでアルバムは幕を閉じる。最近後半の雰囲気好きになってきたのでこの順位。

7位 深海 (1996)

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・「ATOMIC HEART」以降のシングル6曲中2曲しか収録せず、コバタケ主導の下アナログなバンドサウンドを一貫させたコンセプチュアルなアルバム。そのためか評論家や音楽オタクからの評価も高い。暗く厭世的な歌詞が目立ち、自身の不倫問題や売れっ子になったことで感じた虚無感など、当時の桜井和寿の心境が色濃く出ている。また、「マシンガンをぶっ放せ」など社会風刺的な歌詞が目立ち、桑田佳祐からの影響を強く感じさせる。

個人的には当時の桜井和寿の「病んでる自分に酔ってる」みたいなナルシズムがすごく魅力的に映る。一方、明確なコンセプトやテーマがある訳ではないし、この年一番売れたシングル曲「名もなき詩」はしっかり収録されているので、コンセプトアルバムと言うには中途半端かなとも。

6位 DISCOVERY (1999)

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・一曲目からRadioheadをモロに意識。当時の海外ロックシーンを色濃く反映したアルバム。全体的に荒涼とした雰囲気。活動休止中リリースのシングル「ニシエヒガシエ」は当時桜井和寿がハマっていたPro Toolsを駆使して作曲しており、サンプリングを多用した異形のデジタルハードロックに仕上がった。シングル「光の射す方へ」も逆再生を多用したりボーカルの位置を弄ったりとやりたい放題でどちらもセールスはお察し状態だった。

上記シングル2曲に加えて支離滅裂な歌詞のハードロック「#2601」みたいな曲もある一方、後半は「ラララ」や「Simple」などアコースティックな曲もある。そして何より、アスリートから絶大な人気を誇る「終わりなき旅」というド名曲が鎮座していることでアルバムがぎゅっと締まったものになっている。Mr.Childrenの長いキャリアの中でも「終わりなき旅」は一番重要な曲なのでは。

5位 SUPEPMARKET FANTASY (2008)

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・「消費されることをポジティブに捉えよう」というテーマの下、自分達を「音楽」という商品を売るスーパーマーケットに喩えてポップに振り切ったアルバム。コバタケのピアノやストリングスは勿論、ブラスもふんだんに使われている。リード曲であり、ライブ定番曲の「エソラ」がこのアルバムを象徴している。「エソラ」があまりにも強い。

シングル曲ではゼロ年代以降の代表曲「HANABI」や、北京五輪テーマソングの「GIFT」を収録。ラストの「花の匂い」も戦争の惨禍という重いテーマに向き合った名曲。アレンジ過多な上に14曲69分もあるので冗長ではあるが、「J-POP日本代表」としてのMr.Childrenを代表するアルバムだと思う。なおこの年、「GIFT」で断り続けていた紅白に初出演した。

4位 BOLERO (1997)

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・「深海」に収録されなかったシングル群を収録し、半分ベストアルバムのような内容。しかし、この頃のミスチルらしくアルバム曲は攻撃的な歌詞の曲が並び、「深海」より桜井和寿のダークな側面が堪能できる。皮肉と自虐のオンパレード「タイムマシーンに乗って」、V系みたいな曲調に「Fuckする豚だ」という衝撃的な歌詞が飛び出す「Brandnew My Lover」、音楽業界を皮肉った「傘の下の君に告ぐ」など精神状態が心配になる楽曲と大ヒットシングルが交互に並ぶ混沌とした曲順。

しかし、「DISCOVERY」に「終わりなき旅」があるように、鬱屈とした描写から徐々光が差していく名曲「ALIVE」が僅かな希望を繋いでいる。アルバムリリースの後、「深海」「BOLERO」を一纏めにしたツアーを行い、バンドは活動休止期間に入る。

3位 シフクノオト (2004)

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・アルバム毎に音楽性や精神性が変わるMr.Childrenにあって、もっともスタンダードなアルバム。ミスチル知らない人にも導入編としてオススメできる。後期ビートルズ風サイケ「言わせてみてぇもんだ」、ミスチルには珍しい爽やかギターロック「PADDLE」、MVが秀逸なシングル曲「くるみ」、ダウナーで重い「Pink〜奇妙な夢」など王道と変化球がバランス良く纏っている。

また、9.11同時多発テロの影響もあり、ややシリアスなトーンで「一つにならなくていいよ」と歌う「掌」、若干説教臭く少年犯罪を憂う「タガタメ」など社会的なメッセージが目立つ。その極め付けが、特攻隊的なヒロイズムを否定し我が子のヒーローになりたいと歌った「HERO」だ。脳梗塞を乗り越えて発表されたこの曲は桜井和寿本人にとっても大きな意味を持つ曲になったのだろう。ap bank fesでの浜田省吾との共演や、東日本大震災後のツアーで力を込めて歌われたことがそれを物語っている。

2位 Q (2000)

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・アルバム連続オリコン1位と連続ミリオンが途切れたことからも分かるように、この頃はセールス的には低迷期だった。だが、ファンからの人気が非常に高い不思議な立ち位置のアルバム。気怠げな出だしから2番で人力ドラムンベースの如くテンポアップし、躁的ハイテンションなボーカルが捲し立てる「CENTER OF UNIVERSE」。この曲に象徴される通り統一感がなく、まさに「おもちゃ箱をひっくり返したような」混沌としたアルバム。

ボブディランモノマネの「12月のセントラルパークブルース」、吉田拓郎モノマネからの酔っ払ったような語りが乗るファンキーなミスチル流ミクスチャー「友とコーヒーと嘘と胃袋」などの珍曲が並ぶ。この時の桜井和寿の躁っぷりは人として完全に壊れていて少し怖い。一方、シングル曲は6/8拍子で苦悩も希望も抱えて爆進する「NOT FOUND」と、ピュアなラブソング「口笛」というどちらもミスチル屈指の名曲。また、SSW桜井和寿といった風情の美メロバラード「つよがり」や「安らげる場所」といった曲もある。過渡期だからこその思いつくアイデア全てを並べた、音楽的探究心に溢れたアルバム。

1位 IT’S A WONDERFUL WORLD (2002)

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・自分がMr.Childrenの全18作の中で一番好きなアルバム。前年に解散まで出さないと言っていたベストアルバムをリリースし、勢いに乗ってヒットチャートへと返り咲いた。前奏「overture」からの「蘇生」はそれまでのMr.Childrenを鮮やかな塗り替える爽快な一曲。これをシングルにしないのがいかにも彼ららしい。ソウル調の「渇いたkiss」や、スガシカオをイメージしたという「ファスナー」、不倫匂わせソング「UFO」には桜井和寿の捻くれた恋愛観が色濃く出ている。ボーカルの色気と作詞の巧さがピークに達していてこういったテイストの曲と見事にマッチしている。シングル「君が好き」も一見すると純朴なラブソングに聴こえるが、深読みのし甲斐がある歌詞。また、不穏な打ち込みで社会風刺的な歌詞の「LOVEはじめました」は「ニシエヒガシエ」あたりから地続きなのを感じさせる。

このアルバムは表題曲「IT’S A WONDERFUL WORLD」で幕を閉じる。このアルバムの仮タイトルは「この醜くも素晴らしき世界」だったらしい。仮タイトルの方が彼ら「らしい」が、「醜さ」を内包しながら清濁含めて「世界は素晴らしい」と肯定すること。デビューから10年で紆余曲折を経験した彼らの新作が「IT'S A WONDERFUL WORLD」だということ。重みと覚悟を伴ったタイトルだと思う。